遅延は当たり前、ロンドンからノリッチに帰ろうとしたら突然の運休でロンドン市内の違う駅に行って欲しいとのアナウンス、ここからここまでの区間はバスに乗って欲しいとのアナウンス、ウェブ予約はなぜか普通の席よりファーストクラスの方が安い時もある、そのファーストクラスを予約していたら予約数が少ないとの理由で10両以上の電車のはずが急遽2両で駅にやってきて目の前を通り過ぎるので乗り遅れないように駅の端からダッシュ、コーチ(Coach、車両の事をイギリス英語でこのように言います)Kはここにとまりますという駅の表示の前で待っていたらコーチBが目の前にとまりよくよく聞くと通常とは逆の車両編成で駅にやってきたとのことで乗り遅れないように駅の端から端までダッシュ、という具合に現代英国の鉄道システムにおいてはイギリスの人たちも認めるように、冗談のような事態に遭遇することが多いです。逆に、日本の鉄道システムが几帳面すぎるくらいに独自に、そして高度に発達していることを思い知らされます。
しかし様々な近代システム発祥の地の面目躍如というべきか、1930年代の英国鉄道は黄金時代であったことが、イングランド北部の街、ヨークのNational Railway Museum(イギリス国立鉄道博物館)を訪れると分かります。広大なスペースに引退した鉄道車両の実物が多数展示されているのですが、1930年代に最速を記録したという蒸気機関車などは、おおよそ70年以上前に作られたとは思えないほどモダンなデザインで存在感を放っていました。英国の鉄道システムはあまりにも早くに整備されたために、今では線路やトンネルのメンテナンスが大変だそうです。そのメンテナンスのために、ロンドンからノリッチにいつもは直通で帰れるのにケンブリッジ乗り換えで遠回りしないと帰れない日もあります。ヨークの鉄道博物館には日本の初代新幹線も展示されており、車両の中に入ることもできました。線路の幅が広い規格に合わせた車両で、英国の鉄道車両よりもはるかにゆったりとしたスペースに感じました。
5月の初めにヨークを訪れたのは、Sainsbury Institute for the Study of Japanese Arts and Cultures (SISJAC)と日本の奈良文化財研究所共催の「IN-PACE」という研究会に参加するためでした。スピーカーは日本人研究者とヨーロッパの研究者で構成され、ヨーロッパ各地のいわゆる「新石器時代」と言われる時代の研究成果も知ることができて、大変有意義でした。会の最後にはSISJACの所長が挨拶をし、英国がEU(欧州連合)にとどまるか離脱するかを問う国民投票が近づいていることにも言及しました。英国のアカデミアの中では英国はEUに残留すべきとの意見が大半らしいのですが、参加した投票権を持つ人たちに、改めて念押しする意味合いもあったようです。
昨年10月末に英国に来て以降、Britain(英国)とExit(出て行く)を掛け合わせたBrexitという、この問題を示す造語を新聞はじめニュース媒体で見かけることは多かったですが、正直渡英前はほとんど知らなかったですし、そもそもなぜBrexitに関する国民投票が行われることになったのかもいまいちピンときません。たまにそれをイギリス人に聞いても、「あれはサ○というawful(酷い)な新聞が原因のひとつ」と言い出したかと思うと、「デイリー○ラー、あれもawful」となってしまったり、「よくわからないがとにかく保守党はterrible(酷い)」など、話が新聞全般、政治全般の方向に飛んでしまったりで、今でもよく理解できていませんが、とにかく民主主義の壮大な実験とも思える、英国の行く先に大きな影響を与える(であろう)国民投票の日(6月23日)が近づいてきています。
ところでヨークでの研究会に参加する前には、ヨーク周辺の新石器時代の遺跡をめぐり、Thornborough(ソーンボロ)Hengesという土でできた環状構築物群を快晴の空の下、周囲の景観を楽しみつつ見学することができました。同行した新潟から訪英していた縄文研究者とも、「これは北日本の縄文後期の環状土籬のようだ」ということで意見の一致をみました。ヨークでの研究会前後はとても良い天気が続きましたが、その後は急に寒くなったり、また暖かくなったりを繰り返しながら春から夏を迎えようとしています。